【新聞記事】高性能自律型無人潜水機を開発/沖合海洋で環境調査
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いであは、最大深度2000mの深海まで潜航し、海底に接近した撮影や観測ができる高性能の「TUNA-SAND」級ホバリング型AUV(自律型無人潜水機)を民間で初めて開発・商用化した。実海域試験を経て今春から運用を始めており、今後、沖合海洋環境保全への貢献を主眼に、沖合海洋保護区での生態系調査や海底資源探査などに積極活用していく考えだ。
「TUNA-SAND」は、東大生産技術研究所が2007年に開発したホバリング型AUVで、高精度な慣性航法装置や海底地形を参照にした測位機能、潮流に対抗できる十分な推進力を備えているのが特長。いであは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)課題である「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」で同研究所や九工大社会ロボット具現化センター、海上技術安全研究所と海洋工学研究所が開発したAUVの運用について技術移転を受けた。
TUNA-SANDの開発者である浦環東大名誉教授らの協力を受けながら19年6月に「YOUZAN」と名付けた商用化1号機を完成させた。長さ1.3×高さ0.77×幅0.7mのサイズで、重さは275kg。最大潜航深度は2000m、最大潜航時間8時間。スチールカメラ2機と動画撮影用の4Kビデオカメラ、ROVモード用ビデオカメラを備える。
光ファイバージャイロと加速度センサーで構成する慣性航法装置とドップラー対地速度計(DVL)によって、AUV自身で高精度な自己位置測定が可能な航行システムとなっており、高度な障害物検知機能も搭載している。シートレーザーを前方と下方に照射して前方と海底の障害物までの距離・形状を測定し、回避行動の有無をAUVが判断するため、海底付近でも衝突や捕捉の心配なく、海底に接近した運用が可能となる。
さらにROVモードを有することで自律航行と遠隔操縦をハイブリッドで行うことが可能だ。調査内容や調査対象に最適なアプローチを選択でき、遠隔操縦だけの方式に比べて効率的な調査が可能となる。ROVモードでの運用は、安全上300m程度までとしている。
同社は、業務での実運用に向けた安定した制御と運用技術の確立を目指して、水槽試験、実海域試験を繰り返し、得られたデータから艇体制御の調整とデバッグを幾度となく実施。19年末に駿河湾の水深1000m海域で最終試験に臨み、約3時間の潜航で2100枚の海底写真を撮影することに成功した。これを受けて、ことし3月にはNHKエンタープライズとの共同研究によりオーストラリア南西部ブレマーベイ沖合の水深900mでの海底生態系調査を実施した。
今後、沖合海洋保護区での生態系調査や水産資源管理への活用のほか、海洋再エネ、海洋資源に伴う環境アセス、深海における海洋プラスチックごみの実態調査、海底ケーブルやパイプライン、港湾施設といった海洋インフラ維持管理での活用も検討する。