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2021年 ニュースリリース

 サービス・技術 (『国際開発ジャーナル』2021年6月号 (株)国際開発ジャーナル社)

海洋ごみ削減へ ASEAN地域で陸海両面から挑む 他ドナー、各国省庁間の連携を図ったマルチな支援を推進

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マイクロプラスチックを中心とした海洋ごみの増加は、海の生態系を脅かし、水産業・食料資源の調達や観光業などに悪影響を及ぼす危険性がある。特に海洋ごみは東南アジア諸国連合(ASEAN)からの排出量が多いとの研究報告もあり、現在、さまざまなアクターによる取り組みが広がっている。その一つとして「ASEAN各国の行動計画策定及び陸域・海域の統合政策アプローチを通じた海洋ごみ削減のための能力強化」に携わっているいであ(株)海外技術部の佐々倉諭氏と井上彩子氏に活動の詳細を聞いた。(聞き手:本誌企画部・田中 信行)

プロジェクトの焦点を絞る

―現在ASEAN地域で取り組まれているプロジェクトの経緯や詳細について教えてください。
海洋ごみの発生源は陸域8割、海域2割という研究報告があり、問題を解決するには陸海の両方からのアプローチが重要であると、2017年のASEAN会合にて認識された。今回われわれが取り組んでいるプロジェクトは、その両面からのアプローチを支援するものだ。

プロジェクト全体を構成するコンポーネントは5つある。(1)海洋ごみ対策に向けた国別行動計画の策定、(2)リーケージ(発生源)モデルの開発、(3)廃棄物管理のキャパシティ・ビルディング(能力向上)、(4)海洋ごみモニタリングの能力向上、(5)ワークショップの開催、だ。これらの実現に向けて、ASEAN地域における海洋ごみの実態調査からはじまり、問題解決に向けた政策の策定支援と個別案件の実施までをフェーズ別に進めていく。

実態調査を行うフェーズ1は、2019年6月から20年9月にわたり実施した。日本の環境省の支援の下、ASEAN事務局をカウンターパートとして日・ASEAN統合基金(JAIF)を活用して行った。

現在はフェーズ2の準備を進めているところだ。その中では、先述の5つのコンポーネントを今後は(1)、(3)、(5)の3つへと絞ることにした。その理由として、(2)についてはフェーズ1の調査を進める中で、国連環境計画アジア太平洋地域事務所(UNEP ROAP)が日本の外務省からの拠出金によってメコン川流域とインドですでにモデル策定を進めていることが分かったからだ。フェーズ2からはROAPの取り組みと本プロジェクトのシナジー効果を高めることに注力していく。

また(4)に関しては、本プロジェクトと切り離し、別プロジェクトとして同時並行で行っていくことにした。というのも、これまでマイクロプラスチックのモニタリングには標準的な手法がなく、全世界のさまざまな機関が、それぞれの調査目的に応じて異なる手法で実施されており、結果が出ても比較できない状況にあった。そこで日本の環境省が音頭を取る形で米国、英国、タイなど各国の専門家を交えて議論を行い、2019年に世界共通の『漂流マイクロプラスチックのモニタリング手法調和ガイドライン』を策定した。実はこの策定には当社も携わっている。そして環境省は、開発途上国へのガイドラインの普及やそれを生かしたマニュアルの作成支援、モニタリングを行う人材育成のための本邦研修事業などを今後行うことも発表しており、この取り組みと連携する形をとることにした。

他ドナーとは競合より相乗効果を

―あらゆるドナーが問題解決に動いている様子ですが、どう連携を進めていくべきでしょうか。
ROAP以外に、世界銀行もASEAN地域の海洋ごみ問題の解決に向けて支援をしている。そうした他ドナーとの連携は、「競合を避ける」というより「お互いの利点を生かしてより良い効果を生み出す」という方向性を開発コンサルタントとしては目指している。例えば、われわれは海洋ごみ対策に向けた国別行動計画の策定支援を行う予定であり、フェーズ1ではアウトラインを作成したが、世銀はASEAN地域全体の地域行動計画の策定支援を行っている。そこで2019年10月、フェーズ1の一部成果と今後の進め方を各国関係者と共有するワークショップを世銀と共同開催した。地域共同体と各国で問題解決への認識が異ならないようにするため、地域行動計画と国別行動計画の作成方針などについて議論を行った。

こうした連携を進めていく必要性は、単にドナー間だけではなく、各国内でもある。例えば、ごみの取り扱いに関するセクター間での連携だ。ごみを管轄する責任を負うのはごみの場所によってそれぞれ異なり、河川に流れるごみは河川管理者が海上なら港湾管理者、ビーチなら海岸管理者となっている。本プロジェクトでの支援対象は各国の廃棄物セクターが主であるが、われわれとしてもこうしたマルチセクターでの取り組みの重要性を常に念頭に置きながら、各国のカウンターパートと情報を共有している。

実際インドネシアでは、すでに各省庁の海洋分野を取りまとめる機関として海洋・投資調整府を設けて問題解決に取り組んでいる。ASEAN諸国でこうした一元的な機関を設けているのは同国の特徴であり、他国にとっても参考となる事例である。

日本の経験と強みを生かす

―今後の展望は。
フェーズ2では、3つに絞ったコンポーネントを具体化していく。このうち、日本の強みとしては(3)の能力強化を担っていくのが良いと考えている。海洋ごみ問題の解決には「ごみはゴミ箱へ」など人々の廃棄物に関する意識改革やごみの分別回収といった廃棄物管理者の能力向上などが重要になってくる。こうした人づくりの支援は国際協力機構(JICA)をはじめ日本が得意としてきた協力だ。

また陸域からのごみだけでなく、海域のごみへの対応も重要である。日本は海に囲まれた国土ということもあり、早くから海洋ごみの問題に取り組んできている。例えば、日本海側の漂流ごみについては北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)の枠組みでモデリング調査を行っている。また国内では、各自治体が陸上の廃棄物管理を管轄している一方、海洋ごみについては責任所在が曖昧だったため、2009年に環境省が主導し海岸漂着物処理推進法を策定したりもしている。この法案策定の前年には、環境省の研究費を受けて当社と鹿児島大学、産業技術総合研究所、瀬戸内海環境保全協会と共同で瀬戸内海の海洋ごみの実態把握調査も行っている。そこでは、漂着物に印字されているバーコードや文字情報から発生源を特定するなどの手法を用いるとともに、瀬戸内海における海洋ごみの収支を初めて明らかにした。

こうした日本の経験も、本プロジェクトではステークホルダーの能力向上や国別行動計画の策定支援に生かせると考えている。陸域と海域両方からの統合的アプローチができることを当社の強みとして、今後も海洋ゴミ問題に取り組んでいきたい。

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